管理人の論文あとがき

管理人が発表してきた海産クマムシ類の研究論文の紹介と独り言。読みたいものありましたら、お問い合わせください。管理人の手前味噌から改題(2020.04.30)。

Fujimoto S, Ohtsuka S (2019) A new genus and species of Stygarctidae (Heterotardigrada: Arthrotardigrada) from Yaku-Shin-Sone bank (Northwest Pacific). Marine Biodiversity

2016年10月に広島大学の練習船豊潮丸に大塚教授に乗せていただいた折に屋久島の南の海域水深177 mで採集された、海産クマムシ類の新属新種。チカクマムシ科という体節に対応した位置に装甲板をもつ強そうなクマムシの仲間。実体顕微鏡下ではじめてみたときはフェロー諸島沖で発見された単型属Faroestygarctusの未記載種かと思ったが、光学顕微鏡で観察すると、同科他種でみられない丘状の突起が背側に並んでいたり、変な種だったので新属として記載。メスが持つ精子を貯めておく器官の管の一部しか記載できなかったことが心残り。チカクマムシ科の既知属の系統関係に関して形態に基づいた考察も行った。採集地点・採集基質的に分子データが得るのが難しそうな属もあり、なかなか本科の系統関係を分子データに基づいて明らかにするのか難しそうである。それにまだ未記載属がそれなりにいそうな気もする。チカクマムシ科はスケッチしがいのある素敵な形の種が多い。Fujimoto et al. (2017)で、それまで想定されていたクマムシ進化の根っこで分岐したグループという認識を改めざるを得なくなって以来、クマムシの大系統的観点で言うと重要度が下がり、私の関心もちょっと下降気味。でもやっぱり美しい。さっき論文の図を見直したが、やっぱり素敵である。クチクラのでこぼこ具合も触ってみたい。どんなのかみたければ論文をみるべし。

NEW!!Fujimoto S & Hansen JG (2019) Revision of Angursa (Arthrotardigrada: Styraconyxidae) with the description of a new species from Japan. European Journal of Taxonomy 510:1-19.

砂浜から深海まで幅広く分布するAngursaの7種・亜種中5種・亜種を再観察し、また三重大学の練習船勢水丸に乗船させていただいた折に採れた未記載種を新種として記載した。どの種も属名の細いAng-+熊-ursaのとおり、体が細長く、つるりとしており、種分類に用いることのできる形質は少ない。1新種をさらっと報告して終わりにしようと思っていたところ、気が付いたら友人のJG Hansen博士の協力のもとタイプ種など古い標本(40年前)の情報を足すことになり、今の形となった。
この研究については率直な感想として、標本は鮮度が命だと思った。マニアックな話になるが、ここ10年くらい海産クマムシを観察してきて思うに、グリセリン封入して永久プレパラートとする前の、水での1000倍観察がどの形質も一番よくみえる。まず、水は、水を紙に吸わせて減らしたり、スポイトで足したり、容易にプレパラートの厚さを調整できるので、形質ごとにちょうどよく見える状態を作ることができる。そしてグリセリンや他の封入剤よりも、厚さを薄くすることもできるのもよい(クマムシを一時的におしつぶす)。また口から咽頭にかけては炭酸カルシウムで補強された構造があり、これがたいてい永久プレパラートにすると消えてしまうのでこの時しか詳細にみることができない。本論文の属は、頭部にある2対の扁平な感覚器官の形と受精嚢の形が重要なのだが(本論文参照)、この属ではグリセリン封入後、感覚器官の方は輪郭がぼやけてしまい、特に受精嚢にいたってはもう諦めた方がよいと私は思う。このようなわけで、古い標本から、当時観察されていなかった重要な形態情報を抽出しようとする試みは、なかなか厳しいものであった。タイプ標本はいくつも見たことがあるが、海産クマムシ類におけるその有用性は極めて限定的な場合が主である。記載するときに、できる限り丁寧に記載し、論文に使わずとも写真をいっぱい撮っておいてほしい。
ちなみにタイプ種の採集当時の写真を論文発表後に入手したが、これについては、記載当時から非常に残念な姿であった…[2020.04.30]

Fujimoto S (2019) A new species of Tanarctus (Heterotardigrada: Arthrotardigrada: Tanarctidae) from Oku-Matsushima, Japan. Species Diversity 23:209-213.

海産ならではの長い附属器をもったグループの新種を記載した。現在本ウェブサイトトップ画像の真ん中にも採用。雪の降る深夜、宮城県の砂浜で穴を掘って採集した砂からみつけた。宿の外での洗い出し作業が寒くて暗くてつらかった。この属には珍しい砂浜産種で、生け捕りにしやすそうなので、第IV肢から生える長い附属器の動きなどを詳細に観察してみたい。またこの種では附属器の枝の数と長さにけっこう個体差があり、そっくりな別種がいてもこの形質では判別できなさそうである。今度はT. bubulubusのように附属器が風船になっているものを記載したい。私はこの他にT. diplocerusという種を共同研究者らと新種記載しており、日本からはこれら2種の他にT. cf. helleouetaeを鈴木(2010)が、Tanarctus sp.を野田(1994)が報告している。管理人調べではもっといるが、附属器がとれたり切れてしまうのでなかなかやりづらい。

藤本心太(2017) 海産クマムシ類の多様性―その見分け方と見つけ方. 生物科学 遺伝 (4):353-359.
準備中

Fujimoto S, J?rgensen A & Hansen JG (2017) A molecular approach to arthrotardigrade phylogeny (Heterotardigrada, Tardigrada). Zoologica Scripta 46: 496-505.
準備中

Fujimoto S & Yamasaki, H. (2017) A new species and genus of Renaudarctidae (Heterotardigrada; Arthrotardigrada) from Ryukyu Archipelago. Marine Biology Research 13: 288-299.
準備中

Fujimoto S (2015b) Quisarctus yasumurai gen. et sp. nov. (Arthrotardigrada: Halechiniscidae) from a submarine cave, off Iejima, Ryukyu Islands, Japan. Zootaxa. 3948 (1): 145-150.OPEN ACCESS
準備中

Fujimoto S (2015a) Halechiniscidae (Heterotardigrada, Arthrotardigrada) of Oura Bay, Okinawajima, Ryukyu Islands, with descriptions of three new species. ZooKeys, 483: 149-166. OPEN ACCESS
準備中

NEW!!Fujimoto S (2014) A new Stygarctus (Arthrotardigrada: Stygarctidae) from Japan, with entangled seminal receptacle ducts. Zootaxa. Magnolia Press. 3784 (2): 187-195.

お茶の水女子大学・湾岸生物教育センターの近くにある沖ノ島というところの潮間帯で採集したチカクマムシ科の1種をStygarctus ayatoriとして新種記載したものである。タイトルにある通り"with entangled seminal receptacle ducts"、受精嚢へ至る管が言葉で表現しづらいほどにくねくねと蛇行し、とぐろを巻いているのが本種のほぼ唯一の特徴である。それ以外は世界中から報告されているStygarctus bradypusと変わらない。つまりオスや受精嚢のない幼体では形態的に種同定できないということである。クマムシの体の中の幅1μmくらいの管を追うのにはとても集中力を要し、来る日も来る日もステージを上下させながら管をみつづけ、結局この管のルート解明には半年もかかってしまった。かなりクレイジーな管であったが、個体差はほとんどなく形は安定している。世界中のS. bradypusっぽい種をみれば地域ごとに受精嚢に違いがありそうである。これも気になるが、私は、精子の方に種間で差異がないのかとても調べたい…と思って早6年である。やる気あるのか、自分。
ちなみに、日本産の別種Stygarctus spiniferは受精嚢が渦を巻いている(Hansen et al. 2012)。(2020.04.30)

Fujimoto S, Miyazaki K, Suzuki AC. (2013) A new marine tardigrade, Tanarctus diplocerus (Arthrotardigrada: Halechiniscidae) from Japan. Journal of the Marine Biological Association of the United Kingdom 93(4): 955-961.
準備中

Fujimoto S, Miyazaki, K. (2013) Neostygarctus lovedeluxe n. sp. from the Miyako Islands, Japan: The first record of Neostygarctidae (Heterotardigrada: Arthrotardigrada) from the Pacific. Zoological Science 30(5): 414-419.
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